北風と太陽、説得と納得

商社マン生活も早いもので、34年目になりました。

三井物産という大企業を退社し、小さな会社を興してからも18年目となって、
生意気にも、部下に商売のコツなぞを教えなければならない立場に置かれています。

『商売の本質と商社マンの勘違い』として、2007年の8月に書いた事と重複にはなりますが、
改めてそれは、商売の真理と思っておりますので、
日頃、部下に言っている事を書いてみたいと思います。

童話に「北風と太陽」の話がありますが、ご存知の通り、人の分厚いコートを脱がせようと、北風と太陽が競争するお話です。

北風は一生懸命猛烈な強風を吹きかけ、コートを剥ぎ取ろうとするのですが、
そうすればするほど、人はコートを固く握りしめ、剥ぎ取られまいとして北風は失敗します。

対して、太陽は燦燦さんさんとその光を注ぎ、暖かく人を包み込み、
彼自らコートを脱ぎたいという気持ちにさせ、脱がせることに成功します。

太陽が勝利したお話です。

この話はまさに、商売の成功と失敗の良いたとえとして、常日頃部下に言っています。

商社の商売は、つまるところ、お客さまに商品を買ってもらうことで成り立っています。
そのために商社マンは、一生懸命営業活動をするのですが、その営業行為は、
言ってみれば説得の連続です。

「説得」とは、「得」(利益)を「説く」ことで、
お客さまに対し、「これを今のタイミングで買うことは、お客さまの利益になりますよ」と、説き聞かせることですが、その行為自体は、極めて一方的、自己中心的行為です。

『商社マンの勘違い』でいう、
「自分は頭がいい、この商品は最高である、企画力も最高、だから必ず売れる。」と、自信過剰な連中が多く、その効能を得々とお客様に述べる輩が多いですが、

それで全く反応がないとなると、
「なぜ理解してくれないのだろう。あいつら(お客様)が悪いのだ」と、
全く商売の本質を知ることなく、いたずらに日常を過ごしています。

つまり、説得することに一生懸命で、相手の気持ちを全く観察していないので、失敗します。

上記の童話でいう、北風の強風みたいなもので、言われれば言われるほど、反発されるだけです。

対して、「納得」とは、「得」(利益)を「納める」と書きます。
これは「お客さま自身が、自分の心で満足を感じ、利益であると認識し、
その行為を納める」ことです。
納得した主体はお客さまであり、営業マンではありません。
お客さま自ら、その商品を買いたいと、心から思った瞬間が納得です。

これは、童話でいう、太陽の働きかけの結果、人自らが「コートを脱ぎたい」と思って、自ら行動を起こすことと同じと言えましょう。 

商売の本質は、説得行為でなく、お客さまに納得してもらうことで完結するのです。

最終的な帰結は、自分の心にあるのでなく(説得でなく)、相手の心の中に存在しているのです。

2013年4月10日

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